皆様、いかがお過ごしでしょうか。
菱錐の研ぎについて、これもこれもと書いているうちにブログ長くなってしまいました…ネット担当の小柳です。
久しぶりの登場で、詰め込み過ぎました。
内容は濃いですが、実際に研ぎを行ったときの考えや方法を共有することで
誰かの役に立つと信じて頑張って書きました。
というのも、以前お客様よりこんな相談を受けました。
「他社の菱錐を買ったものの全然刺さらず、コインケースの作製を諦めてしまいました。
自分でyoutube等を参考にして研いでみましたが、刺さりません。こんなものなのでしょうか…。」
目次
■経緯
当店はあくまで材料店で、道具の加工は行っておりません。
しかし一定のペースで菱錐について同じようなお悩みのお問い合わせがきます。
そんな方のために、これをブログの種にさせていただくことを条件に
お持ちの物を拝借させていただき、個人的に研ぎ直しをさせていただきました!
というよりも、道具は加工やメンテナンス次第で使えないと思っていたものでも
使えるようになったり、使いやすくなったり……可能性を秘めております。
可能性を潰すことはもったいない!という心が道具を販売している1人として根底にあります。
ちなみに僕自身も数本しか菱錐を研いだことはなく、もちろんその道のプロではありません。
■そもそも菱錐って?
皆さんは菱錐(ひしぎり)はお使いでしょうか。
まず、菱錐って?という方のために特徴等を完結にまとめている過去ブログがございますので添付します。
▶菱錐の先の形の違いについて説明します。
https://blog.phoenix-shop.jp/archives/17879#more-17879
菱錐にはメリットもデメリットもありますが、メリットの方が多いので
1本持っておくと便利です。なくてもいいかもしれませんが、持っててよかったとなる道具です。
個人的には柄の部分を切る(削って)自分の持ちやすい形にするはかなり良いと思います。
菱錐って使っていると指が疲れてきてしまうので、パソコンのマウスや靴と一緒で個人個人に馴染む形の方が作業性もアップして疲れにくいです。
柄部分は木のことが多いので、100均のヤスリで簡単に形を変えることが可能です。
(木くずがかなり出るので注意です。吸い込むと気持ち悪くなります。)
お好みで木工のオイルなんて入れてみて帆布とかで磨いてあげたり……。おっとこれはもう関係ない完全な個人的な好みでした(笑)
■拝借した菱錐の様子
Yさんがご自身で研いだとおっしゃっていた菱錐の刃先の形はイラストの鉛筆のような、先にかけて急なテーパがかかり鉛筆の芯部分だけ刃がついているような形でした。
確かに針のような道具というと、先端が尖っているほうが刺さりが良いイメージですよね。
先が細ければ力が点で入るので、とりあえずの刺さりはもちろん良くなります。
ただ革のようなある程度の厚みのあるものを貫くとなると話は変わります。
上記のイラストでいうと芯(研いだ部分)までは刺さるけど、そこから先は……あれ?進まない……だと……?って現象がおこります。
ですので研ぎ直しでは、ここでいう革の銀面~床面までしっかり抵抗が少なく貫ける形を意識して行いました。
■今回の研ぎ方について
さて、研ぎの本題です。このブログでは、ただの革屋スタッフの僕でも
ある程度形になったやり方や感じたこと気づいたこと等を共有できればと思います!!
前提として研ぎには様々な方法があります。
これはしないほうがいいんじゃない?も、もちろんございます。
正直感覚で判断する部分もございます。
こういう部分があるのでプロの方がいるのだと感じますし、予めピンピンに研がれている菱錐が値の張る理由もわかるような気がします。技術を買うことも、技術を実感できる1つの有効な手段と考えてます!
0、準備したもの一覧
研ぐ上で準備したものです。
・耐水ペーパー(#600、#800、#1000、#2000)
⇒ホームセンター等で購入できます。耐水ではない紙やすりを使用するとクズが大量発生して大惨事になるので注意してください!(※経験者は語る)
・マスキングテープ
⇒研いでいると柄の部分が汚れることが多いので、それを阻止するために柄にぐるぐると巻きます。100均や文房具屋さんに売ってます。
⇒研ぎや磨きの際の潤滑油として、利用します。
⇒研いだあとの面を整えるために使います。面を整えることで刺さり具合がかなり変わります。
・なにか硬い土台(今回は手に入りやすいガラス板を使用します。)
⇒ヤスリがけにも共通しますが、手で紙やすりをもって作業するより、木材等に巻きつけたほうが削る速度があがります。土台が硬いほうが、変にタワム心配もありません。
研ぎも同じで土台部分が硬いほうがやりやすいです。ガラス板の場合はセロハンテープで耐水ペーパーも貼れるのでサイズ的にも使い勝手が良い気がします。
1、自分の最終的にしたい刃先イメージ
何事もゴールのイメージがないと途方もないことになってしまいます。
菱錐でいうと、どこまで研げばいいんだろう…?どうなれば終われるのだろう…?
ましてや刃物は研ぐと、その分削れていきます。やりすぎると段々鋼材部分が減っていくので注意です。
消えた刃は戻ってきません。憧れのブランドがあれば、検索したりして刃先を見てみたりしましょう。
それだけでも意識がずいぶんと変わるはずです。
すごく貫きます。スッと……。びっくりします。ということはこれの刃先を真似れば……
おのずと答えがでました。目標はこれに決定です!
※購入時期により、刃先等の仕様が変更されている可能性がございます。
この菱錐の特徴で感じたところは以下です。
・刃の面が鏡面磨きになっていました。
・菱錐と名前ですが、厳密には菱型ではなく、刃先にかけて菱の角部分が均されて猫目ポンチのような先端になってました。
・刃の先端にかけて薄くなり、横から見た時に刃先は尖ってはおらず、三角よりも逆に半円に近かったです。
これをポイントとして、せっせこ研いでいきます!
店頭にサンプルもあるので、是非手にとってみてください♪
2、耐水ペーパーの一番目の荒いものから理想の形に
ダイヤモンド砥石や、一般的な砥石でももちろん大丈夫です。
・汚れても捨てるだけ
・水に漬けなくていい
・凹凸をなくす作業がいらない
・水回りで作業しなくていい
いろんなことが自分のスタイルと合っていたので、耐水ペーパーを好んで使用しています。
まずは#600の耐水ペーパーを任意の大きさに切って、硬い土台に張り付けます。
ガラス板に貼り付けてます。貼り方とか大きさとかは特に決まりはありません。
貼る際のテープも市販のセロハンテープです。
後は菱錐というくらいですから面が4つある状況です。
刃先を上から見ると ◆ の形になっているはずです。
とりあえず、1面ずつ研いでいきます。
研ぐ動作は上下運動でもいいと思います。不慣れなうちは時間はかかってしまいますが、一方方向で研ぐのもありです。使い勝手的に刃先から15mm程度のところまでは刃付けしたほうがいいかもしれません。扱う革の厚さにもよりますが、研ぎ幅が狭いと前述でも言いましたが、そこまでしか刺さってくれません。
あと繰り返しになりますが、消えた刃は戻ってきません!!ゆっくり急がず研ぎましょう。急がなくでも鋼材の部分が小さいので思っているより、すぐに研ぐことが可能です。
オイルが黒くなってきて刃の部分の視認性が悪くなりますが、随時ペーパーやティッシュで拭ってチェック必須です。
(オイル少なめでも潤滑油の役割は果たします。えらい!)
※ヤスリも研いでいると凹凸がなくなってくるので、無くなってきてツルツルしてきたら貼り替えましょう!
3、番手を上げて面を整える
番手を上げるタイミングってとても難しいと思います。#600でどこまでやればいいいんだ!となります。実際私もなります。
そんなときはあくまで目安ですが、全体的に色が変わったら上げてみましょう。
ここでいう色が変わるとは……
研いで刃がついてきて、刃のついていない部分より微かに輝いてきた状態です。
料理でいうと玉ねぎを炒めて、熱が入って透明になってきた頃合いです。熱がしっかり通りきった茶色にならない程度です。(伝わりにくい)
番手あげようかな?っと感じたら、上げていいと思います。
後は好みの輝きが得られるまで、根気強く研ぎます。
ちなみに油性マジックを研ぐ面に塗ってから研ぐと、そこの面が「均一に研げているか・どこまで研げているか」のある程度の目安になります。研げたところはマジックが剥げてきます。結構見たもわかりやすいので菱錐研ぎビギナーの方におすすめです。ですが、あくまで目安として活用してください。
#800でも#1000でも研げます。1度細かく上げた番手は荒い番手に下げてはならない!というルールもないので、まだまだだったなと思ったら、また番手を下げてもOKです。
形が粗方できたら#800から#1000。#1000から#2000。は、もう研ぐというよりも面の微調整というニュアンスです。ここでいう調整は、刃先を上から見た時にシンメトリーじゃないとかもっと薄い刃にしたいとか、刃先を丸くしたいとかです。
4、革砥を使って、調整
ここで終わらないのが研ぎです。面を整えているときにわかることもあります。
それは研げていない部分や、番手を上げて研いでいく過程で面が均等に研げておらず仕上がりに差があるときです。
ピカピカにならない箇所があぶり出されるときがあります。
そのときは番手を1つ。場合によっては2つ戻り、整うまで研ぎます。
これを繰り返すとゴールです。
と、思いきや……
4、端切れに刺してみる(貫いてみる)
最後にテストです。端切れに刺してみましょう!!
1mmのような薄い革だと少しわからないので、せめて2mm程度の革で試してみます。
いつも使う厚さがある場合は、そちらのほうがいいかもしれません。張り合わせた革とかいろんなパターンで試してみてください♪
まずは、革を置いた状態で上から。次に革を手にもって浮いた状態で横から。
刺しているというより、刃の方から革にヌッと入っていくような感覚になればいい感じだと思ってOKです。
違和感があったり、体重を乗せないと貫けない等がありましたら「刃付けが甘い or 研げていない」可能性大です。これも番手を戻って納得がいくまで仕上げます。
上から刺す場合は、コルク板等の刃に負担をかけにくいものを下に敷きましょう。
5、研ぎ終わり
上記の手順で、地道に研ぎました。だいたい30分程度使いました。慣れればもっと研ぐスピードは早くなるはずです。
Yさんの菱錐の研ぎ結果はこうなりました。
いかがでしょうか。上記の説明どおりに研いで刃先も鏡面仕上げのつもりです。
縫い穴と縫った感じのサンプルも作製しました。結構いい感じだと思います!
トスカーノリスシオという革の元厚(2.0mm程度)を2枚張り合わせています。
皆さん的にはきれいな穴に見えますでしょうか……?
■最後に
お取り扱いしている本で、菱錐の研ぎを紹介しているものもあります。
プロの技をみるのは面白いです。
菱錐の研ぎ以外にもかなりマニアックなことも丁寧に説明してくれていて、写真も綺麗で見やすいので個人的におすすめです。
長々と連ねましたが、作業の中で個人個人でやりやすい形態や方法がでてくるものだと思います。それをつきつめるのも一興です!!
誰かのレザークラフトライフの糧となりましたら幸いです。
新型コロナウイルスも感染者数がまた増えてまいりました。
不要不急な外出はせず、こなときこそレザークラフトはどうでしょうか。
(今の時期なら「カードケース」や「ブックカバー」は簡単かつ、程よく縫いの練習できるのでおすすめです♪)
では!!! また!!!
過去の関連blog:
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- 協進エル商品(一部)値上げのお知らせ。
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