以前芯通し革についてblog書いたのが2011年。。ソウデスカ、、もうそんなに時間タッタノカ、、、orz
さて、あの当時に比べて専門家の知り合いも増えたので芯通しのメリットデメリットを聞いてみると同時に私自身も勉強させていただきました。
目次
芯通し革、ってどんな革?
裁断のコバ面に表面と同じ、もしくは同色の色がついている革、ですね。
フェニックスにおける芯通し革はどのような革で、それ以外はなぜ通していないか、などはまた解説します。
フェニックスで言うならばタンニン系ならばアリゾナは芯通し革ですね。
アリゾナ(CONCERIA LA BRETAGNA社) – レザークラフトフェニックス ONLINE SHOP
まず以前持っていた知識から
芯通しのメリット・デメリット
メリット
・鞄や財布を作る際に縫い穴が芯通しならば白く見えないので目立たずありがたい
・タンニン革の場合コバ仕上げが楽
デメリット
・費用が高くつく
原因は>染料や乾燥時間がかかりそれが結果的に高くつく要因
オチからいっておくならば専門科の方々に聞いた所私の認識するデメリット部分が誤りという指摘がありました。
身元明らかな専門家のご意見はありがたいなぁ ほんとに。
専門家
専門家 タンニン革の生き字引の人
川村通商株式会社 鍛治様
タンナーさんなどに薬品を卸す会社さん。タンナーさん相手へのアドバイスや各種革関係のセミナーも行っている方。タンニン革の生き字引的な方
鍛治様
「芯通し染色が始まったのは、そんなに古い事では有りません。元々はクロム鞣しが始まり、革の中心部の色が表面と違い白っぽくなるのを嫌っての事です。それも手袋革や衣料革だけに使用されてきました。
下記の表は以前に兵庫県の皮革大学のレクチャーで使ったものです。
これを見ても解るように、染料を浸透させるには色々な条件を整えなければなりません。
そのすべての条件は本来の革の良さを損なう物です。
その点、衣料革や手袋革は銀浮の問題も無く、しかも薄い為に比較的簡単に芯通しが出来るので、クロム鞣しが始まって直ぐに行なわれてきました。
ところが袋物やブーツのメーカーがミシン目や切り口が白く見えるのを嫌がり、それらの革にも芯通しの要求が来る様になりました。
私の若い頃なので1970年代の半ばだったと思います。
そこで、お書きの様に縫製の際云々は良いです。
しかし、タンニン革は違います。本来、植物タンニンは構造的に染料に近い物です。
つまり、植物タンニンで染色した物は既にタンニンで着色されているのです。
しかも、革の中心部までタンニンが入っているので染料は浸透しません。
そこで、植物タンニン鞣し革は仕上げの顔料での着色が中心でした。
しかしアニリン革なる物がファッションになると、植物タンニン鞣し革にも染色の依頼が来る様になり、挙句の果てには芯通しの染色要望まで来るようになっています。」
(アニリン革もよく質問受けたり、検索で探している人が多いのですが、染料で仕上げた透明感のある革です。
アニリン革によるメリット・デメリットもあるのでそこらは上記にあげた皮革用語辞典なりを御覧ください。
皮革用語辞典はかなり勉強になります。)
「タンニン槽で十分にタンニンを食わせたベンズ等は芯通しの染色は出来ません。
しかし、ドラム鞣しや日本のヌメと言われる軽く鞣したタンニン革は芯通しが可能です。
タンニンの充填が少ないので、染料の入る余裕が有るのです。
そこで、お書きのタンニン革コバ処理はやり易いとは言えません。
タンニン革のコバはワックスで磨けば簡単に処理できます。磨いてもツヤが出ないのはタンニンが少ないからです。
増して、浸透染色されていれば尚更タンニン含有量が少ないためツヤが出づらいですね。
次にデメリットですが乾燥に時間が掛かると言うのは違いますが、後はタンナーさんの言う通りです。
添付の表を参考にしてください。
表面染色 | 浸透染色 | |||
中和のpH | pH=4.2-4.3程度 | pH=5.0以上 | ||
中和の時間 | 比較的短時間 | 中心部までの中和の為、長時間 | ||
染色浴比 | 200%ぐらいの大浴 | 空打ち程度の小浴 | ||
染色温度 | 高いほど染料活性が良い | 水に近いほど浸透しやすい | ||
染色時間 | 15-20分の短時間 | 60分以上の長時間 | ||
染料の種類 | 含金染料など堅牢性の良いもの | 酸性染料の分子の小さな物 | ||
染料の量 | 少量 | 大量 | ||
太鼓の形 | 幅が広く高くないもの | 幅が狭く高さがあるもの | ||
得られる革 | 比較的スムースで硬め | シボが出て柔らかい |
・タンニンを十分含ませた鞣し(当店で言えば昭南ベンズ)などは染料を入れるような余地はない。
・タンニン革のコバ仕上げがつややかに出来るかどうかはタンニンが十分入っているかどうか。
専門家 鞣しの先生
大学時代から鞣しについて勉強されていた方。
「メリットいいと思います。
デメリット部分が問題ありますね。
・染料が余分に必要となります。
場合によっては倍以上です。この染料価格の問題はそれほど大きくありません。
・革の品質が低下しやすい
特に、ヌメ革では、繊維間に天然鞣剤と工程由来の無機物が詰まっているため浸透自体が大変難しい。
染料で処理する時間が大変長くかかり(場合によっては2-3日)、その間、比較的低いpH(中性域に近づける)にせざるを得ないため、革の品質が下がります。
そのため、芯通しした革はしないものよりも柔らかく、荒びやすい、腹部の落ちが出やすい傾向にあり顧客から苦情を受ける原因となる場合が多いです。
同じ表情、硬さで浸透染色をした革とそうで無い革をつくるのは、工程の煩雑さ、使用薬品の量から言っても決して多少の価格差では補てんできないものがあります。
pHを低く(中世域に近づける)するのは、再鞣工程か染色工程で、主鞣工程ではないことにご注意ください。」
・染料が余分に必要となる
・皮の品質が低下しやすい
こちらの方も秋に受講した皮革大学で講師をしてくださった方です。
皮革大学についてはまたblog書きますが、講師の方々はとんでもない知識量でした。
専門家 皮革に携わっている方
こちらも専門家。
名前を出すのも一苦労かかる方ですが専門家の方です。
>>費用が高くつく
>原因は>染料や乾燥時間がかかりそれが結果的に高くつく要因
「ムラキさん、申し訳ないですが、これは私も突っ込みますよ。( ´ー`)フゥー...
芯通しで費用がかかる要因ですが、厳密にいうと染料が倍以上かかるの
ではなくて、芯通し用の染料と表面染色用の染料と二種類必要だからです。
染料の使用量や単価は、求める色合いや染色堅ろう性によって異なってきますので、芯通しによってコストアップするのは間違いないですが、どれくらいアップするのかは一概にいえません。
また、表面染色用の染料は一般的に芯通ししづらい(なので、芯通し用染料が別に必要となります)ですが、時間をかければ芯通しできないこともない染料もあります。
そういう場合、ドラム内の水量を減らして(これによって染料濃度を上げる)染色時間を長くすることによって、芯通しする場合もあると聞きました。
この場合はドラム稼働時間が長くなることによるコストアップが見込まれます。
それと乾燥ですが、芯通しを行うにしても芯通し染色→表面染色と連続的に染色処理を行うので、芯通しだからといって乾燥に時間がかかるとはいえないかと思います。それよりも乾燥でどれだけ時間がかかるかはどの機械設備を導入しているかで決まるかと思います。
低温バキュームなど、皮革専用の乾燥機が多々ありますが、タンナーによって
機械設備に大きな差があります。」
> ・鞣し工程でphの値を高めなければならなく結果的にコシがなくなる
これも厳密にいうと、異なると思います。
普通、再鞣 → 染色 → 加脂 と工程を進めます。
確かに芯通しをするためには、pHをあげる必要があります。
しかし、染色の前の再鞣工程でpH調整を行う場合が多いので、鞣し工程でpHの値を高めなければならないと断言できるかどうかは疑問です。
推測になりますが、タンナーによって処方が異なるかと思います。
全般的にいえるのは、タンナーのやり方(薬品処方)や機械設備によって、細かい事情が異なってくるということです。
日本での皮革製造におけるネックは一部のタンナーをのぞいて、最新機械設備を導入していないというのと、原皮薬品の購入コストが高くなっていることだと思います。
・芯通しでは染料が倍以上、ではなくて、芯通し用の染料と表面染色用の染料と2種類必要。
また、使う染料によって時間・費用なども大きく変わる
・やり方も各タンナーによって異なり一概には言えない
専門家 研究家
これまた専門家。名前出すのも一苦労
「芯通し?
色落ちしやすいですね。裏面からもコバからも色落ちしますよ。
製品になったもので苦情相談など来ますね。
ただ、使う染料によって異なります。
硫化染料を使えば色落ちなどは少なくなりますが、染料の扱いが難しくなり専門家の意見がないと厳しくなりますね。
また染料コストが高くなる傾向があります。」
・芯通し革は色落ちし易い
・ものによっては色落ちしづらくできるがそうなるとコストが高くつく
タンナーさん
アークレザージャパン株式会社さん
革1枚に印刷出来るようなプリンター持っているタンナーさん。あれは面白げな臭いがプンプンと
【革の里会員】アークレザージャパン株式会社 – はりまうすと仲間たち
「いちタンナーの視点からコメントさせて頂きます。
当社では2.0-3.0mm厚の革を製造していません。従って当社の知見は、必ずしも話題にのぼっている素材についての説明となるかは分かりませんので、その点をご配慮下さい。
まず、染色工程は一般的に中和、芯通し、上掛けの工程から構成されます。
ブログで、「PHを上げる」と言われているのが、中和工程のことだと思います。
従って、鞣し工程ではなく、染色工程でPHを上げています。
※鞣し工程で通常よりPHを上げるというのは、寧ろ鞣しの度合い等と深い関連があり、染色工程でのPH調整とは分けて考えた方が正しいと私は認識しています。
芯通しの有無に関わらず中和工程は実施されます。
芯通しアリの場合は、芯通しナシの場合よりPHを高くして、革をほぐして染料を断面に浸透しやすいようにします。
この時に革がほぐれるので、コシがなくなったり、革の強度が低下したりします。
逆に言えば、それによって革の風合いは向上するので、用途によってメリットにもデメリットにもなると思います。
本題の芯通しですが、芯通しナシであれば、この芯通し工程自体がないので、染料の必要量や製造時間がその分減り、コスト面で大きなメリットだと思います。
逆に、芯通しアリの場合は、「深い」色調が表現しやすい点がメリットだと思います。
芯通しの有無で乾燥時間等の手間が変わるかとか、芯通しアリの方が風合いが良くないというのは、よく分かりません。(個人的にはあまり影響ないと認識していますが、はっきり否定は出来ません)
作りたい革製品に合わせて芯通しアリ、ナシを決めるのが本質的だと考えていますが、『芯通しをしているのが当たり前』だという一般認識が根底にあり、それが大きな要因ではないかと思っています。」
風合い、って難しい表現だと思いますが、寺越さんが考える革の風合いってなんだと思います?
「う~ん、確かに説明難しいですね。
僕自身は基本的に理系的、客観的な考え方を¬するのですが、革の風合いに関しては、ほぼ自分の感覚だけで判断しています( ´―`)フゥー...
曖昧ですし、個人的な好み¬でしかないと思います。」
あ、それでいいです。 風合いは表現しづらいんですよ。究極的には個々人の好みだと思っています。最終的には作り手なり購入者個々人が自分で「私は、これが好きだ」と言えるようになってもらいたいですから。
芯通しアリのほうが「深い」色調が表現しやすい
中和工程で革がほぐれるので、コシがなくなったり、革の強度が低下したりします。
すべての芯通し革がそうだとは限らない
専門家の方々にお伺いして太字でデメリットメリットなども書いていますが、存在する革の中には芯通しでも色落ちに強かったり、革の良さがあるものもあるかもしれません。
タンナーさんの中には「そうだけどそうじゃない革を俺は作っている」という人もいるかと思います。
実際にお使いの革・使う予定の革がどれだけ色落ちに強いのか、表面の状態がいいか、などはご自身で判断してください。
もしくは実際に皮革試験所、、もとい、下記の試験所などに持ち込んでお金をかけて検査してみてください。
色落ち検査ならば5000円でお釣り出ますな
繊維・高分子科-地方独立行政法人大阪府立産業技術総合研究所
ようこそ皮革工業技術支援センターへ
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>その間、比較的低いpH(中世域に近づける)にせざるを得ないため
逆ではありませんか?
中性は革にとっては高PHです
みきさん
アドバイスを頂いた専門家の方にお尋ねしました。
下記のように解答を頂きました。
ペーハーの定義をググって下さい。H プラスイオンの数を対数で表したものですから彼の誤解です。