トラブルの原因追求に労力の9割がかかることもある。サビの原因が接着剤なんて、想像出来ないよ┐(´д`)┌


東京都立皮革技術センター台東支所というところが定期的に発行している「かわとはきもの」という業界紙がPDFで毎号アップされています。これが過去のもあげていてくれるし、きちんと検索にも引っかかるようになっています。ほんとにもう毎号感謝の極みな雑誌です。

で、最新号に載っている「サビ」の事例がものすごく素晴らしい学びが得られるのでオススメです。今回のオチは

・トラブルの原因追求に労力の9割がかかることもある。
・革製品トラブルだからって革が原因とは限らない。

というものです。

「かわとはきもの」はほんとにものすごい

東京都立皮革技術センター台東支所は皮革や革の試験を行ってくれます。

東京都立皮革技術センター

で、ここが3ヶ月に1度に出してくれている「かわとはきもの」という業界紙はお硬いといやお硬いのですが、革に興味ある人ならば読んでおいて損はありません。PDFで過去のものもおっかけられます。今見たら2000年から1年×4号分を全部PDFで公開してくれていますな。

台東支所出版物|支援・相談|台東支所業務案内<靴・はきもの>|東京都立皮革技術センター

特に過去20号ぐらいにわたって連載されている「かわのはなし」はタンニン鞣しの神様、と呼ばれているような人が書いている鞣しの話なのでものすごく勉強になります。ダウンロードして定期的に読み返していますわ。専門家がわかりやすく文章書くって貴重なんですよ。

最新号に載っていた「クレーム事例から学ぶ革の特性 錆」がすごい

クレーム事例から学ぶ革の特性 10   錆 PDF

最近の連載の革のクレーム事例から学ぶ革の特性もオススメです。これもものすごいです。
PDFで公開してくれているとこういう時便利だよなぁ。。。無料公開してくれているのはほんとにほんとにありがたいです。

フェニックスでも過去に錆 サビの相談が持ち込まれた

で、これがどうすごいかというと、革と錆ってあまり関係ないように思えますが、実際は「革製品についている金具が錆びた」という事例はちょくちょくあります。当社でも以前お客様から持ち込まれました。

ホックが錆びた!というケースから「こんなことで金具は錆びる」という話 | phoenix blog

 

ちなみに上記事例では

金具の不良を疑う>お客から聞き取り調査>染色した後、ジップロックに入れて保存していた>それやがな!∠( ゚д゚)/

というものでした。

想定されている原因が

1つ目、メッキ不良
2つ目、革の残留薬品
3つ目、出来たてほやほやの革は薬品が揮発している
4つ目、接着剤
5つ目、合皮と接着剤の複合技

とまでは考えていましたが、まさか染料からの揮発成分が原因とはなぁ。。興味ある人は上記blogをまた御覧ください。

事例7で紹介されている原因は接着剤

クレーム事例から学ぶ革の特性 10   錆 PDF

錆の原因は接着
剤であることが分かった。これは接着剤
中の架橋剤アミン、ゴム加硫促進剤中の
硫化物、酸、塩基などによることが考え
られた。この試験結果を踏まえ、接着剤
の選択を行い、接着剤の中にこれらを用
いないものに替えることで改善できた。

このケースでは接着剤が悪さをしていました。
これは「接着剤はサビさせる」と言っているわけではありません。特定の接着剤では錆びることもある、ということです。

PDFを読めばわかりますが、再現実験と対照実験、成分分析などまで行ってはじめてここまでの結論にたどり着いたわけです。

トラブルの原因追求は知るのに労力と時間が9割かかることもある

事例8などは「ファスナーや革が固くなり変色している」ということですが、これも調べてみると「そばに置いていた除湿剤から漏れた水分が付着していた」というものです。

これなんてよくわかったなぁ、と思います。

「製品がわるい!」と持ち込まれた場合、お客は「私は何も悪くない」「だから周辺状況には何も置いていない」と言い張ることも大変多いです。

もちろん製品が原因だとしても「革」「金具」「金具のメッキ」「接着剤」が原因の場合もあります。置いている状況、、「除湿剤(こいつはほんとに革に対して悪さするケースが多いなぁ、、除湿剤が革に触れたり、除湿剤のためた水分が付着すると大概トラブります)」「湿度」「手入れ方法」などが原因になることも多々あるわけです。

トラブル解決、というのは革屋、メーカー、職人、金具屋、タンナー。そして何よりもお客さん自身。全員が協力する態勢を整えないと解決できないですね(´・ω・`)

カバンの修理とパソコンの修理は同じ「修理」という言葉でも労力が全く違う

例えば「ここが破れた」というカバンの修理が持ち込まれたら「トラブル箇所発見に1割、トラブル回復に9割」の時間と労力がかかります。カバンの修理箇所なんて破れた・ファスナー壊れた、などですので、見りゃわかるわけです。

他方、「パソコンが突然動かなくなった」という場合は「トラブル箇所発見に9割、トラブル回復に1割」の時間と労力がかかります。電源が抜けているかもしれないし、BIOSから設定したら解決するかもしれないし、そもそもOSのインストールが失敗しているかもしれないし、ウィルスかもしれないし。見てわかるわけないんですよ、PCのトラブルなんて。

ちなみに私は過去インターネットに繋がらない!という自分のPCの原因究明に3日かかりました。原因は「自作PCのLANケーブルを受けるソケット口が壊れた」というもの。わかるか、こんなん!(╯°□°)╯︵ ┻━┻

同じ「修理」ということばでも意味合いが全く異なるわけです。

革のトラブルは考えなきゃいけない要素が多すぎます。上記にあげたように、タンナー、革屋、金具屋、メーカー、職人、お客さん。さらには和歌山県工業技術センターに依頼して皮革の試験をお願いしなきゃいけない、ということもあります。(もちろん有料です)

口頭だけ。文章だけ。写真だけで「ちょっとわからない?」「プロなら原因わかれよ!」というのは不可能なわけです。実物を見て、聞き取り調査が必須です。

「お前プロだろ!わかって当然だろ!」と言われても無理なものは無理

「お前プロだろ!写真や口頭説明だけで正解を導けよ!」と言われても無理です。無理だからこそ「わかりません」と答えるしかないわけです。言えたとしても「推測ですが、、」「憶測ですが、、」という枕詞をつけざるを得ません。

プロだからこそ、曖昧に答える恐ろしさをよく知っているわけです。

原因追求のためには関わる人全員の協力が必要

事例7の場合などは、タンナー、革屋、金具屋や、縫製する職人、メーカー、持ち込んだ依頼者、などすべてが協力したからこそ原因がわかりました。接着剤が原因なんて現場の職人の証言を手に入れないと絶対にたどり着けない原因なわけです。

革製品だから革が原因とは限らわないわけです。

質問があればお答えしますが、有料な場合もあります。

例えば当社の革を使ったトラブルなどや疑問点は遠慮なくお問い合わせください。

ただ、当社以外の革や金具使用の場合や、お客様都合の質問内容の場合は有料にて調べることもあります。

フェニックスが持っている会社や人の縁や蓄積された事例は莫大です。ただ、会社の縁を使うにはお金を出さなきゃいけないケースも多々あります。また、回答が他のお客さんの商売の邪魔をする、というような場合は回答出来ないこともあります。

お問い合わせ | レザークラフト Phoenix(フェニックス) -レザークラフトの材料店 革、金具、道具、テキスト、教則本

文責:ムラキ

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