湿度と革の関係 ーこれからの季節に気をつけたいこと


こんにちは。Phoenixの横井です。

今年は例年よりもジメジメした気候の大阪です。
なんか心なしか虫もよく見かけますので、女性スタッフ多めのPhoenixでは
G対策にも余念がありません。

さて、これから梅雨が明け、夏に近づくほどに
ここ日本においては高温多湿となっていきますが、
今回は専門家からのアドバイスを元に
特に、高温多湿環境で気をつけなければいけないことを
レザークラフトの観点から書きたいと思います。

 

 

はじめに

今回の記事は、専門家の方からアドバイスをいただいたことや、文末に載せた参考文献を元に、
私Phoenixの横井なりにまとめたものです。
私はその道の専門家ではございませんので、細心の注意は心がけてしたためますが、内容に誤りなどがございましたらコメント欄にてご指摘ください。

 

湿度と革

 

革を保管する上では、特に私たちが主に取り扱うタンニン鞣しの革は、湿度が40%-60%ほどが望ましいと、以前に教わったことがあり、革の売り場に湿度計を置くようになりました。
(今は換気のこともあるので、55%くらいになってしまっていますが)

最適な湿度があるということは、湿度は革に作用すると考えてよさそうに思ったのが今回のブログのきっかけです。特にこれから日本では高温多湿になりますので、今回はそのことを中心に認めていきます。

また皮革ハンドブックという書籍があるのですが、それの革の特性要因の項を読んでみると、
革には吸湿性が備わっている、と書かれています。
たまに「革は呼吸する素材」と呼ばれているのを聞きますが、
多湿環境下で革は湿度(水蒸気)を吸着し、低湿度環境下でそれを放出するからだと思います。
靴のライニングなんかはその特性を生かし、蒸れにくい、というのをよく謳っているのを目にしますね。

細かい研究や数値なんかは専門家の方に任せるとして、
革は湿度の影響を受けるんだ!くらいに捉えていただければ今日のところはOKです。

 

湿度が高いと革は吸湿する

 

先に書いたように、革は湿度の影響を受けます。
で、どのように受けるか、ですが「湿度が高いと湿気(水蒸気)を吸って、湿度が低いと湿気(水蒸気)を放出すると申し上げましたが、
多湿環境ですと、湿気が放出されずに革の中に留まります。

ただし、留意しなければいけないのはこの時に取り込まれた水分は
革と結合しているわけではなく、隙間にとどまっているだけのものなので、
外的な影響を受けやすいことです。

 

湿気が革に与える影響

多湿環境下で革が湿気(水蒸気)を吸湿した場合、当然のことながら、革における水分量が増加します。
一般的には革には14~15%ほど水分が含まれているといわれますが、
このバランスが崩れてしまうわけです。

湿気というとピンと来ないかもしれませんが、
たとえば革が水に濡れてしまった場合を想像して(実際にハギレで試してもらってもOK)いただくと、
染料染めの場合、革の色が濃くなったり染料がにじんで出てしまう事もあります。

湿気を擦った場合でも量は違えど革の内部では同様のことが起こるので、
多湿環境の場合、移染(色移り)がおこりやすくなります。

これは店頭のハギレで実験したものです。
マスラオ(レッド)と昭南タンローを重ねた状態で重しを載せて〇日放置しました。

オイルも映ってますが、うっすらと赤みがタンローの方に移っているのが分かります。
重しを乗せていたので擦ったりはしていませんが、摩擦が生じるとこの症状はもっと表れれます。

また、他の症状として型崩れが起こりやすくなります。

塗れた状態で成型して乾燥させるとその形を維持するウェットフォーミング技法というのがありますが、高湿度状態に革を置くと型崩れがおこりやすくなります。
また濡れた状態でドライヤーなどで急速に熱を加えると熱収縮とよばれる現象が起こり、
クロム、タンニン問わず革製品が変形する場合もあるので注意が必要です。

このあたりのトラブル事例はいつも大変お世話になっているNPO法人日本皮革技術協会の先生が
こちらのページで実例を用いた解説をされています。「 クレーム事例から学ぶ革の特性」という表題ですが、それ以外もさすが専門誌!と唸る内容ですので、よろしければご一読ください。
めちゃくちゃ勉強になります!http://www.hikaku.metro.tokyo.jp/shisho/shien/public.html

 

今回の記事を書くにあたって参考にした文献

Phoenixでは歴代の革担当スタッフは
近畿経済産業局小規模事業者等支援委託事業で行われる兵庫県皮革大学校というものに毎年通わせていただいています。今年は仲地が通学中。
内容については過去にブログを書いていますので、割愛しますが
革を扱う仕事ですので、「革とはなんぞや」という勉強に余念がありません。

今回ブログを書くにあたって、日本皮革技術協会編樹芸書房出版の皮革ハンドブックと
皮革大学のテキストとしても使用した日本皮革技術協会の新版皮革科学を参考にしました。

なかなか一般流通していない(皮革ハンドブックはプレミア化してます)書籍ですので、
入手は困難ですが、「革とは何んぞや」という疑問に対して科学的なアプローチで答えてくれる本ですので、興味ある方は調べてみてください。

 

8/7追記:革とアルコール

ふと思い立って追記しました。
最近、店頭に「革にシミができたんだけどどうにかならないか?」という問い合わせがよく来ますが、そのほとんどがアルコール起因のものでした。

・アルコール消毒した手で手が乾燥する前に触ってしまった
・アルコールスプレーが飛んでシミになった

コロナウイルス予防でアルコール消毒を行う頻度が圧倒的に増えたわけですが、
思わぬところに違うトラブルが潜んでいたんだなーと。

結論を先に申し上げますと、
ほとんどの場合、アルコールでできたシミは取れません。
何故ならばアルコールによって革素材が変性してしまっているからです。

革の化粧に使われる薬品のほとんどはアルコールに対して脆弱ですので、
たとえ一滴であってもダメージを受けてしまいます。

人間の肌もアルコール消毒しすぎるとカサカサになってしまいますが、
革も同じくらいデリケートな素材ですので、取り扱いの際はご注意くださいませ。

 

 

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