国立民族学博物館でみる革の話:特別展「舟と人類」で見る皮の舟


毎度です。「まぁ、技術や民俗学のほうが専門なんだわ」ムラキです

化学よりも技術。技術よりも民俗学のほうが本来は専門ですわ。
さて。「東のカハク、西のミンパク」と博物館好きに言われるほど、西の地域では「国立民族学博物館」は特殊な場所です。西の地域で小学校中学校を過ごした人間が遠足で行った記憶あるよ!と答える場所が、国立民族学博物館=ミンパク、なわけです。

「あれ、1日で見るのは無理ですよ(;・∀・)」というほど展示物が多い場所なんですが、25年12/9まで特別展「舟と人類―アジア・オセアニアの海の暮らし」が開催されていました。

水系は苦手意識があるのですがフライヤーに皮の舟が記載されいていたので「まじかー( ´Д`)=3」と思いつつもいってきました

国立民族学博物館

  

展示概要

舟がメインとなる1階展示では、人類が最初に建造し、利用した舟は何か?という問いから、樹皮、草、動物の皮、丸木など多様な素材を浮力にし、現代まで利用されてきた舟たちも紹介します。そのほかに古代日本の舟として埴輪や出土した板材に注目しつつ、北太平洋や南太平洋圏に進出した人類が考案し、利用してきた舟たちが勢揃いします。

牛皮舟(中国)牛皮舟(中国)

イヌイットのカヌーは知っていたが中国、、、というかチベットのこれは知らなかったなぁ。。( ´Д`)=3 じゃぁ見に行くかぁ。。。

実際に見に行ってきた

 

年に2回ほどは見に行っています。まぁ行くたびに発見があるのですが、今回も企画展をじっくり見ていたら常設展を見に行く余裕がありませんでした。ま、いつものことですね。

民族学博物館は展示物も多いですが、奥深さは映像資料の多さです。
遠足なりでいくと「映像を1本無料で見れるよ!」チケットを1枚もらえたものですが、現在は見放題になっています。これも細かく見るとモノづくりと金儲けに直結するような映像に出くわすことがあるので一日こもることをオススメ出来ます。

ビデオテークデータベース

皮?革?どちら?

JIS規格における革 | 日本の革 | 日本革市 – 素材から作りまでメイドインジャパン

もう何度も何度も口にしているのですが、、、2100年にこの記述を見る人もいるかもしれないので、、、

2024年にJIS規格により革、という漢字記述についてきちんとルールが決まりました。

「革」「レザー」と呼ばれる製品は、
牛や豚などの動物の皮をなめして作られたものだけを指します。

今回のケースでは国立民族学博物館サイドは一律で「皮の舟」という記述をしています。

舟は小型。船は大型を指します。まぁ、小型大型はどのレベルから、というとまた違う論争が起こるんですが、、今回の展実物「グリーンランド」「中国」で手に入れた「舟」は記述としては「舟」といって問題ない大きさです。(展示会場では「じゃぁこれはどっちやねん?」というものがちらほらと、、、)

舟と船、港の漢字の由来 | 船のなるほど | 海と船なるほど豆事典 | 日本海事広報協会

さて、今回陳列された「皮の舟」はグリーンランド、中国で手に入ったものですが、オチから話すならば両方とも「皮」だろうな、と思います。鞣しが甘く手入れをしないと硬化or腐敗が起こり得る可能性があります。「鞣し」をしていない皮は硬化or腐敗が起こり得ますので。鞣しをしていない以上は記述としては「皮」となります。

エスキモー?イヌイット?

私が子供の1970年代から80年代は万博からのつながりで海外探検ものに関する報道がとても多かったです。NHKのシルクロードやエスキモーの記述なども多かったです。

その後エスキモーという記述は差別語である、という非難が起こりました

エスキモー – Wikipedia

そのため民族学博物館などでは「エスキモー」「イヌイット」などという記述はなされず「グリーンランドの アザラシ皮のカヤック、と書かれています。

 

この記述が2100年なりの人が見る可能性があるので書いておきますが2025年11月はAiの進歩が一段階進歩しました。googleのgeminiが一段階進歩し、日本語を入れ込んだ画像生成やPDFの読み込みなどが格段に進歩しました。これにより海外の論文の読み取りが格段に楽になりました。今回のblogはこのgeminiの進歩に助けられてもいます。(月額3000円かかりますけどね( ´Д`)=3)

グリーンランドの皮の舟はどう作られていたか?骨組みは?

海などで波を切り裂いて進む舟or船はある程度骨格がしっかりしていないと波に勝てません。以前からイヌイ、、もとい、グリーンランドあたりの舟に皮を使うのは知っていましたが「じゃぁ本体構造の骨格はどう作っているんだろう?」とは疑問に思っていました。

今回の展示では間近で見られたお陰でやはり材木が使われていることがわかりました。グリーンランドあたりは木が低木or細い樹木しか生えておらずしっかりとした材木は貴重です。そのためどこでどう舟の骨格作るのかな、と思っていたら流木を使っている、とのこと。貴重品ですから、この地では材木が。

じゃぁ皮はどうしていたの?革じゃないの?

鞣しをして腐敗・硬化をさせないようにしているのですが、記述では「皮の舟」となっています。樹木が採取出来ないとタンニン鞣しなどが使えず、この地では口鞣し、という特殊な鞣し方が使われていました。極寒の地というのは腐敗は起こりづらくなります。「起こらない」わけではなく、あくまで「起こりづらい」というレベルです。

腐敗は起こりづらくなりますが、硬化は起こり得ます。そのため硬化を起こりづらくするには口なめしor油鞣しを使っていたと思われます。

で、今回gemini様を使っていると

Encyclopedia Arctica (Dartmouth College Library) 第9巻 “Transportation and Communications” 内の “Skin Boats” の項目において、「エスキモー(イヌイット)は通常、アザラシの油(seal oil)で縫い目を埋め、皮全体にも獣脂を擦り込んで防水していた」との記述があります。 (Source: Dartmouth College Library Digital Collections – Arctic Skin Boats)

Arctic Skin Boats Encyclopedia Arctica 9: Transportation and Communications

油鞣しなのかどうか、というのは多分検査機関で調べないと厳密に調べられません。ただ、獣脂(この場合はアザラシの脂。寒い地域でも硬化しづらいので)を塗り込むことで皮に対して防水処理をしていたのだと思われます。その際に軽度の油鞣しが生じていたのかな、と。

獣脂を塗っていたらokなの? 

Sea Wolf Kayak / Animating a Hide-on-Frame Greenland Kayak 伝統的なカヤック製作の再現記事において、以下の記述があります。

“Inuit peoples almost always used seal oil or other animal blubbers to seal their qayaq skins.” (イヌイットの人々は、カヤックの皮をシール(密封)するために、ほぼ常にアザラシの油やその他の動物性脂肪を使用していた。)

Animating a Hide-on-Frame Greenland Kayak | Seawolf Kayak

海獣の脂を使うのは低温化でも硬化しづらいからかと思われます。もちろん防水用途がメインです。また、この脂は猟期間中は毎日or数日に一度は行い、数年で張替えを要求されました。

口なめしにせよ油鞣しにせよ、鞣しとしては弱い鞣しでしかありませんので、このblogを読んでいる方が異世界なり極寒の地でサバイバルをすることになった時にしかおすすめできない技法です。

チベットの皮の舟

 

さて、こちらのチベットで採取された皮の舟はまた違う面白さがあります。

こちらは形状的に「波をかき分ける」形状をしていませんので、おそらく波がない=河or湖で使われた舟だと思われます。

骨組みはやはり木製

 

これも近くで見てわかりますが木で骨組みを作り皮を張っている構造です。ただグリーンランドの舟ほどエッジが立っていません。波をかき分ける必要がないからだと思われます。

鞣し技法は実際に触ったり検査にかけているわけじゃないのでわからないのですが、鞣しをきちんとされていないのだと思われます。生皮として使い、防水として油を塗りたくりかな、と。地域によっては木を削ったりするよりも楽ですので、この作り方のほうが。

縫い方が面白い

縫い方が独特でした。場所によっては内縫いやを使い、場所によっては外縫いを使い分けていました。前述のカヤックは、すくい縫いが使われていました。
防水をどうしているか、を調べてみたいのですが、まぁ、実際に触らないと無理なので諦めます。 触って削って分析かけたり、場合によっては舐めたりしないとわかりませんので。極寒の地ではないですから蝋もアブラも手に入るので作業はしやすいと思います。

民族学博物館で見る革

そういや、以前も書いていましたね、民族学博物館と革の話は。。10,、もとい、8年以上前に。。。

革やモノづくりの視点をもって博物館を見ると見える景色なり得られる知識量が増える、という話でしたわ

 

民族学博物館で革の勉強をしてみようpart1 動画資料で皮なめしやらを見る: レザークラフト・フェニックス

民族学博物館で革の勉強をしてみようpart2 アイヌが使っていた鮭の革: レザークラフト・フェニックス

エンタメの革の話をしよう!:Dr.STONEで見る魚の革の話。アイヌ民族の鮭皮衣や姫路白鞣しの話 | phoenix blog | 1926年創業の革素材問屋のスタッフが、レザークラフトのあれこれを語ります。

 

過去の関連blog:


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

*