エンタメで見る革の話:軍鶏の革の拘束具=革手錠に見られる「ねじる余地があると壊れる」「だから一切動かないように固定させる」という話


漫画もよく読みます。元々本屋バイトなので出版業界や漫画の動向などを未だに観察しています。

で、「漫画は過去の名作も新作もアプリで無料で出さなきゃ読まれない」「多分歴史上で今が一番『漫画家』という職業が一番多い時代」だな、今は、と思うわけで。

講談社の漫画アプリ「マガポケ」は講談社の漫画アプリノ中では中心的な存在となっています。この中では「軍鶏」という漫画が読めます。98年の漫画で色々とゴタゴタゴタゴタとあったのですが、2015年に無事に終わりました。なげぇよ、340話弱( ´Д`)=3

今回はこの漫画の13話で見られる少年院編で見る「革の拘束具=革手錠」から見られる「ねじると壊れる」「だから拘束具は対象を一切動かないようにする」ということを解説してみましょう

軍鶏ってこんな漫画

基本空手とバイオレンス漫画

98年連載開始で途中ゴタゴタで止まって2015年に無事終了しました。

軍鶏 (漫画) – Wikipedia

もう、ほんとに昔の漫画は原作と絵描きで喧嘩多いんだよなぁ( ´Д`)=3 キャンディ・キャンディ、どうするんだよ、ほんとにもう、、

あらすじとしては「両親を刺殺した優等生の少年・成嶋亮が少年院に入り、そこで出会った空手の達人・黒川健児に師事して「生き残るための空手」を身につける。出所してからは格闘技界に入り、無軌道なバトルを繰り広げてゆく。」というもの

連載当時、描写がリアルで話題になっていたんですよね。休載で「もう終わらないだろ」と見きった人も多かった作品です。それが今ではアプリで読めるからいい時代です

軍鶏 – 画/たなか亜季夫 原作/橋本以蔵 / 【第1話】「霧の彼方」 | マガポケ

なんと30話まで無料!残り320話ほどありますがね!

ピカレスク・ロマン(悪役が主役)的な面もありますので、セックスandバイオレンス~な部分もある漫画ですが、日本の漫画史に残る漫画の一つだと思います。

マガポケはちょっと変わったアプリ

マガポケ|少年マガジン公式無料漫画アプリ

マガポケは「それ以降は毎日配布される無料チケットで1日1話くらいは読めるよ!」「コメント欄あるから感想言えるよ!」「ポイントを日々貯めると1話ずつ購入できるよ!」というシステム。この「ポイントを無料で貯めて1話ずつ購入出来る」というのは結構珍しいです。レンタルで72時間限定で読めるよ!というシステムのほうが一般的です。

講談社系の雑誌連載の漫画はここで最新話も発表当日に200pとかで購入出来たりしますので、毎日ログインしていたら月間の最新話などは当日に実質無料で読めたりします。進撃の巨人最終話が発表されたときはサーバーダウンしていましたね。

ポイントで買えばいつでも読めるので、単行本になるほど話が溜まっていないまま休載して5年たつ漫画でも読めるからありがたいものです。パンプキン・シザーズ、お前のことだよ(・д・)p チッ

13話 特別懲罰房、で革手錠が載っていた

軍鶏 – 画/たなか亜季夫 原作/橋本以蔵 / 【第13話】「特別懲罰房」 | マガポケ

問題を起こした主人公リョウは特別懲罰房に入れられます。この時に身に着けさせられたのが上記の革手錠、と呼ばれるものです。

基本的に手を全く動かせられないようになるとものすごくストレスがかかります。
で、動けない状況でもリョウはイメージトレーニングで空手を練習する、というのがこの13話の話。1話でサクッと終わるエピソードですが、丁寧な絵と描写が際立つ回でもあります。

革手錠ってなに?

 革手錠は革製の腰ベルトに腕輪2個が付けられたものであり、使用された者の両手首を腰部の腹側ないし背中側に身体に密着させて固定する戒具である。革手錠を装着されると腕から手首が不自然な形で固定され拘束程度は極めて高度である。片手または両手を後ろ側で固定されれば、食事をとることも、横になって眠ることも、用便後の後始末も不可能である。
また、保護房は家具も窓も全くない特別の房であり、冬季は極めて寒く、夏季には耐え難い高温となる。過去にも凍死や熱射病による脱水死等を引き起こし、国家賠償請求が認められたケースがある。

Sep31 appeal より引用

 

革手錠ですが、ベルトについており、装着されると両手が動かせなくなります。

なぜ革が使われていたのか?

頑丈だからです。布はどれだけ頑丈でも「糸が織られた集合体」でしかありませんので、1本1本切っていったら連鎖的に他の箇所も崩壊していきます。それに対して革は線維がとてもとても細く、かつ、複雑に絡み合っていますので多少切られても崩壊することがありません。

が、現在では革の戒具(拘束具ではないです。戒具、です)はさすがにもうないと思うんですけどねぇ。

なぜ現在は革手錠がないと思うか?

理由はいくつかあります。

1 革ですので手入れが必要となります。
革手錠は用途として「毎日外してあげよう!」「その後にお手入れ!」などをするものではありません。また、頑丈さを求めてヌメ革系統が使われるとなおさら汗や涙や汁が入ることでドンドンと固くなります。カチカチに固くなると壊れやすくなったり、固くなった革が人の肌を傷つけますので、現在は戒具としては使われていない、と思います。

2 固定するためにベルトで腹部を圧迫するのがかなりやばい。ベルトで固定すると、暴れた衝撃がベルトによって「線」のダメージを腹部に与えます。暴れれば暴れるほど腹部にダメージがいくのですが、腹部=内蔵です。内蔵圧迫は見た目以上の深刻なダメージを与えます。
ベルトのピン穴部分が異様に長いのは「腹部圧迫してもピン穴にこれだけ余裕があればベルトも多少は緩むから、呼吸もしんどくないよね!」という優しさだと思います( ´Д`)=3

3 素材的な問題です。現状では軍需産業では「頑丈だけど手入れをしないと傷んでくる革」よりも難燃ビニロンやアラミド繊維などの便利な素材が使われています。実際問題第2次世界対戦以降、軍備装備で革素材の使用頻度は減っています。

革手錠は結構問題のある道具ではありますので現在では使いづらいと思います。戒具はあくまで「暴れないように拘束する」ための道具であり、「相手を壊したら駄目」なわけです。

どういう問題が起こったかはまた調べてみてください。「うん、そうなるだろうなぁ」「そもそも世界的に犯罪者でも身動き出来ないレベルで拘束、ってもうしなくなってきているからなぁ」などの感想を抱きます。

革手錠 – Google 検索

羊たちの沈黙のように昨今の戒具は「拘束衣」になっているのも納得しますわ。「面」の固定はいいですけど、「線」の固定はダメージが大きくなります。

革手錠の構造から見る「ブレる・ずれるは壊れる」「だから一切動かせないようにする」という考え方

カシメは、固定箇所を何度も何度も何度もねじったりするといつかは抜ける

この革手錠ですが、手錠部分にカシメなどを使っていません。
これはカシメなどは「長時間じわじわと加えるようなダメージ」を受けると、革部分がグニョングニョンと伸びてきます。革が伸びるとカシメを入れている穴が伸びてきて最終的にスっぽ抜けます。

革は強度あるのに柔らかい、という非常に相反する特性を持っている天然素材です。それがために、「開けた穴に差し込んで潰して留める」というコンセプトのカシメは、ねじるような行為を革に与え続けるといつかは革が伸びる=穴が歪んで大きくなり、カシメが抜けます。

どういう革を使っていると思う?

推測ですが、おそらくタンニン1枚革です。フェニックスで言うなら昭南グレージングベンズあたりですね。

昭南グレージングベンズ(サドルレザー) | ヌメ革と真鍮金具とレザークラフト材料の通販-フェニックス

基本的に機械も道具もパーツ数が多くなればなるほど壊れやすくなります。分厚い革を2枚重ねるよりも1枚の分厚いもののほうが分離しづらくなります。

私は普段つけている革ベルトは縫製なしの1枚革ベルトです。確か40mmのオイルヌメベルト。これを縫製なしで使っています。縫製があるとその部分が稼働するたびに糸穴が広くなり最終的には革が切れたりします。糸だって毎日ズボンとこすれると徐々に切れてしまいます。だから、1枚革の縫製なしのベルトのほうが縫製ありベルトよりも長持ちします。今のベルトで4年ほど使っていますが、その前は10年以上保ちました。
(某国がよく作っている張り込みだけのベルトは使用頻度にもよりますが3年保たないと思います。接着だけのベルトは剥がれるって、必ず)

厚口オイルヌメ ベルト ブラック | ヌメ革と真鍮金具とレザークラフト材料の通販-フェニックス

バッテンに縫っているのはなぜ?

「ベルトに縫製があると糸が切れたり、革が破れる」というならばなぜ革手錠ではバッテンに補強縫いがしてあるのでしょうか?

これは「ねじれによる革の表と裏の剥離を避けるため」かと思われます。
実際に革の手錠なりを身に着けたらわかりますが、自由になりたいならば、手をひっぱるよりも、「ねじる」という動作を試すかと思われます。分厚い革の表革部分と裏革部分を「ねじる」ことで表と裏を剥離=剥がそうとするからです。

この「ねじる」という行為は薄い革ならば威力を発揮しませんが、分厚い革ならば大変効率的な破壊手段となります。理由としてはテコの原理が働くからです。

バッテンに縫うことでこの「ねじれ」による表と裏の剥離=剥がれが起きないように制限をかけているわけです。

そもそも革手錠自体が一切の「ねじれ」も「ぶれ」「ずれ」も起こさせないように人間をガチガチに縛る

ベルト部分の前後に手錠をつけることで人間による「ねじれ」も「ブレ」「ずれ」も起こさせないのがこの革手錠という道具のコンセプトです。

ではこれを装着された人間はどうなるか、というとイモムシのように寝っ転がるしかないわけです。これによりねじれもブレもズレも起こさせないようにしています。さらに革を壊すのに効果的な「アスファルト面や壁にこすりつける=ヤスリで革を削る」という行為もさせないようにします。

革手錠と防声具 : 身体検査の日々

物の「崩壊」は細かなブレやズレから始まる

じゃぁ、拘束された状態で革手錠を壊せるの、というとかなり難しいです。ねじろうにも拘束された状態で力が入りづらいようにされています。また、丹念に縫製されているため、ブレやズレも起こしづらくなっています。

「将来的にこうなった時のためになにかヒントを!」と言われたら「ずっと細かく1点にブレやズレを起こしていくしかないかな」というのが回答となります。1mmずらせたら、細かく細かくダメージを与えることで2mmずらせるようになります。2mmずらせたらこんどは4mmずらせるようになります。

まぁ時間もかかりますし、その間に看守に見つかるとは思いますが(;・∀・)

ベルトも鞄も靴も同じ

可動域が多いもの、というのは細かなズレで崩壊しやすくなります。これを防ぐためには「そもそもズレやネジレ、ブレがない方が良いよね」というのが回答となります。

下記blogでも書いていますが、稼働する・回転するような金具は壊れやすいんですよ、結局は。

こけしの頭はいつかは削れる:外れてしまうナスカンの話 | phoenix blog | 1926年創業の革素材問屋のスタッフが、レザークラフトのあれこれを語ります。

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昔の漫画は少年院ネタ多かったなぁ、、、

とっさにでてくるだけでもスケバン刑事やら、男組やら。まぁ、あしたのジョー以降少年院はよく使われましたな。

 

過去の関連blog:


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