エンタメの革の話をしよう!:Dr.STONEで見る魚の革の話。アイヌ民族の鮭皮衣や姫路白鞣しの話


漫画小説映画問わず、エンタメの世界での革の話。

今回は今月に最終巻が発売されたDr.stoneに見られる革の話から、最新話で描写された魚の革。そこからアイヌ民族の鮭皮の話や油による鞣し話、をずらずらと書いていきます。

ちょうど7月に最終巻発売&特別編公開&アニメ第3期第0話放映&国立科学博物館コラボ記念や完結記念サイト公開にあわせて取り上げましょうかね。

Dr.STONEでの革の記述と国立科学博物館

DR.STONEはこんな作品

DR.STONEは2017年から2022年まで連載された週刊少年ジャンプ作品。

原作者の稲垣理一郎はジャンプでアイシールド21の原作を書いた人間。作画のBoichiはヤングキングでヤングキングでギャング漫画「サンケンロック」を書きつつ、その合間に重厚なSF短編マンガ「HOTEL」「全てはマグロのためだった」を発表。「あぁ、この人SFも描けるんだな!」と思っていたらDR.STONEの作画担当&週刊連載地獄を始めたので、連載発表された時驚いたものです。

Dr.STONE – Wikipedia

『Dr.STONE』完結記念「Dr.STONE科学史 2009-57XX」

Boichi – Wikipedia
Boichi(@Boichi_Bo1)さん / Twitter

稲垣理一郎 – Wikipedia
稲垣理一郎(リーチロー)???(@reach_ina)さん / Twitter

内容としては乱暴に言うなら「世界滅亡して3700年後に一人だけ目覚めた科学得意な少年が、科学をベースに文明復興していく話」というものです。

過去に下記blogで紹介していますので興味ある方はどうぞ

エンターテイメントの革の話をしよう!:ジャンプ連載のDr.STONEにはマニアックな革の描写が行われている

2巻124Pから

先日国立科学博物館行ってきたらDR,STONEコラボが行われていた

先日東京で皮革産業連合会の会議に呼ばれたので、趣味と実益兼ねて東京国立科学博物館に行ってきました。今は完全予約制となっています。

国立科学博物館 National Museum of Nature and Science,Tokyo

今回の目的は植物画コンクールの発表とDR.STONEのコラボ企画

博物館は「自分の研究を深める」のも仕事ですが「自分の研究を子供や周りに理解してもらう」ということも仕事の一つです。その一環で「人気漫画と手を結ぶことで自分たちの仕事を理解してもらう」のが今回のDr.STONEコラボ企画のスタートかな、と思います。まぁ、このblog記事と同じですわな。

今回はミニ企画展、ということで博物館の一角でミニ展示コーナー。ちゃんと小学生にもわかりやすく解説されています。博物館の強みは実物を見せられる、ということですな。力の入った良い展示だと思います。ここらの話はまた違う場で行いますわ。

で、2022年31号の週刊少年ジャンプに特別編が掲載されました

Dr.STONEは今年頭に最終回を無事に迎えて、今月7月4日に最終巻が発売されました。
で、今月にアニメ第3期の第0話といわれるものが放送され、来年3月から第3期が正式にスタートします。この第0話にあわせて、先月の週刊少年ジャンプ31号に最終回からその後の話が特別編として掲載されました。

今は買いそこねた号数もネットで電子で買えるので便利な時代です。

週刊少年ジャンプ 2022年31号 | ジャンプBOOKストア!|無料マンガ多数!集英社公式電子書店

タイトルにテラフォーミングとついているのは

話としては「海の上で遭難してから海の上だけで船を作っていく。」という話。ただし、タイトルにテラフォーミング、と書いてあります。これは「他の天体を地球のように住みやすい環境に作り変える」という意味で、そこから「入植」という当て字を使っていると思われます。

テラフォーミング – Wikipedia

あるいはwikipediaにもあるように「通常、学術的にもSF作品的にもテラフォーミングの対象は他の惑星であることが多いが、一部のSFでは何らかの要因により壊滅した地球環境を元に戻すという意味でテラフォーミングの言葉が使われる場合もある。」という意味ですね。

船が作るのが目的、ではなくて、居住に適さない環境を、居住に適した環境に作り変える、というのが今回の特別編のテーマかと思います。

週刊少年ジャンプ 2022年31号 | ジャンプBOOKストア!|無料マンガ多数!集英社公式電子書店 130頁より

で、革の記述 フイゴ=鞴

エンタメで見る革の話:鞴(ふいご)の種類をDr.stoneを見ながら解説してみる

以前も上記blogで解説した鞴ですが、今回も出番がありました。ただ、今回は海の上で手に入る魚の革を手に入れる前にこのシーンが存在しているので「服から革を利用したのかな」と解釈します。

週刊少年ジャンプ 2022年31号 | ジャンプBOOKストア!|無料マンガ多数!集英社公式電子書店162頁より

 

魚の皮から革をとる

週刊少年ジャンプ 2022年31号 | ジャンプBOOKストア!|無料マンガ多数!集英社公式電子書店 166頁より

魚関係の皮の有効活用については下記についても以前解説を書いていますので興味ある方は御覧ください。「ムラキさん!長すぎだよ!」と上から叱責されたblogです(´・ω・`)

村木るいさんの「人に話したくなる革の話」/水産皮革(鯨・鰻・鮫・エイ…)はどのように活用されてきたか? | JLIA 日本皮革産業連合会

210323.jpg210314.jpg

さて、今回の本題。

アイヌ民族の鮭皮衣の話が出てきています。彼らが海で採取しているのは鮫や他の大型魚類です。
ここでの鞣し方ですが、これが画面表現だけ見ても微妙に特定しづらいです。(;・∀・)

下記blogでも解説しているようにDR.STONE初期の鞣し方として口鞣し、という人間の唾液に含まれる酵素を使った鞣し方は行われていました。

エンターテイメントの革の話をしよう!:ジャンプ連載のDr.STONEにはマニアックな革の描写が行われている | phoenix blog

ですが、上記の絵の中では口なめしの風景は描かれていません。擬音として「べろん」「べべろん」というのはあるのですが、これは魚から皮を剥ぎ取った擬音かな、と思います。さすがに海の上で口鞣しをすると死ねるかと思います。摂取カロリーよりも消費カロリーのほうが多いだろうし、接種水分よりも消費水分のほうが多いでしょうな。

では、海の上での鞣しはどういうものなのかを推測していきます。

アイヌの魚皮衣ってどんなの?

手持ち資料やネットを調べると、、

マルハニチロ、こんなサイト作っているんだなぁ。。

サーモンミュージアム(鮭のバーチャル博物館)|マルハニチロ株式会社

関西ならば大阪の国立民族学博物館に行けば実物が多分まだ見ることができるはずです。

民族学博物館で革の勉強をしてみようpart2 アイヌが使っていた鮭の革: レザークラフト・フェニックス

魚皮製衣服 | 国立民族学博物館

「人に話したくなる革の話」皮から革へ。世界の鞣しを大阪で学ぶ |  JLIA 日本皮革産業連合会

季刊銀花 2002年冬 百三十二号 動物素材の復職に詳しく載っている

これを見るとロシアのアムール川流域の先住民は下記の作り方で魚皮衣を作っていたとか。

魚の皮は剥いできれいに肉片をそぎ落とし乾燥させる。魚卵などで作った鞣し液を用いて、乾燥魚皮を叩く。そのための特殊な台と木槌がある。何枚も重ねてたたんだ魚皮を二時間も叩くとウロコはとれ、柔らかくなり、裏側は綿毛のようにフワフワになる。ツユクサで青く染め、キイチゴで赤く染めた魚皮を切り抜いて文様を作り、台になる魚皮に縫いつける。
さらにそれをいくつも仕立て上がった魚皮衣の背面に縫いつける。裾回りにはカサトカと呼ばれる魚の顎骨や金属製の下げ飾りをつける。

季刊銀花 季刊銀花 2002年冬 百三十二号 45頁より

ん?てっきりアイヌ民族も煙を使った燻による鞣しかと思っていたが、魚卵を使っている、とのこと。(げ、過去のセミナーで何度か煙による鞣し、と説明していたなぁ(;・∀・)

1975年のコタン生物記に記述があった

コタン生物記 は1975年に刊行された本ですが、2020年に青土社から復刊されました。相変わらず渋いところついてくるなぁ、青土社は

こちらの449.450ページに記述があります

サケ皮の利用
サケは食糧として重要であるばかりでなく、その皮は衣料や履物の材料としても大切であった。と
くに樺太アイヌの人たちは着物として多く用いた。

着物をつくるにはサケの皮の鱗を内にして板に張り、三曰くらい乾したものを束ねてとっておく。秋になってから筋子の乾したのを水にうるかして潰し、鱗のついているサケ皮の表の方にそれを塗って、三日ほど陰乾しにする。

乾いたら二、三枚ずつ巻いて縛り、丸太のIヶ所を凹ましたところにのせて槌で叩く。こうして柔らかくなったら、切れなくなった小刀で鱗をこそげおとし、これを縫い合わせて着物にするのである。

子供の着物をつくるのでも三十枚くらい、大人のものだと五十枚を必要としたという。

背鰭のところは鰭を切り取るために穴があくので、そこに几じ形の、色のちがった別の皮をあてると、それが模様になる。位のある男の着物の裾にはアザラシの皮、偉い女の人の着物の袖口や襟や裾にはカワウソの皮などをつけたりした

筋子の干したのを水でふやかして、、って何の鞣しだ???

鮭の卵、いくらを干して水でふやかして、鮭皮の表に塗って陰干し。巻いて縛って叩く、ってのはおそらく固くなる繊維をほぐしているのかな、と思います。同時にいくらの成分(油かなぁ、、脳漿なめしの一種と考えるとホルマリン???)を繊維に染み込ませて柔軟性を出しているのかな、と。

銀花にかかれているのと同じ記述ではあるから、多分間違いないだろうなぁ

で、今回のDR,STONEの鞣し方は?

上記1コマ目で司が鮫を大量に取っているので、そこから卵を獲得、かなぁ、と。
チョウザメあたりの卵=キャビアが有名ですが、チョウザメなら北の方限定?と思ったのですが、wikiによると生息域は温かい地方でもいるようで。

 アリューシャン列島及びアラスカ湾からメキシコエンセナーダまで分布し、かつて日本にも分布していた チョウザメ科 – Wikipedia

ただ、このコマに描かれているのは明らかにチョウザメではなく、鮫です。鮫からも一応卵を取ることは可能といや可能ですが、他の魚から卵を収穫しているかな、と思いますわ。

他にも油なめし、というなめし技法があり、これなどは魚から取れる油を使います。セーム革などはこれで作られます。

油鞣し–Oil tannage|みんなの皮革用語辞典

この話の前半では魚の油を集めている風景がありますので、油でなめしている、と考えるほうが正しいかもしれません。

ベロンベベロン、という擬音は何を意味するのか?

2つ考えていて。

1つは 魚の皮を本体から剥ぎ取る擬音
もう1つは、皮をもみほぐす擬音。

動物から剥ぎ取った皮はほっておくとこのように固くなります。犬のガムですが、原材料を見ると「牛の皮」などと書かれていることが多いです。これは鞣しをしていないので、表記としては「皮」が正しいわけです。

で、これを固くならないように柔軟性を付与するのが鞣し工程の目的の一つです。

例えば姫路白なめし、と呼ばれる菜種油を使った昔々のなめし方では揉み工程といって「足で揉む」、という工程がありました。

これがYoutubeで見れるんだものなぁ、、、すごい時代だ。

姫路白鞣しでは塩と菜種油、そして姫路の川「市川」に生息するバクテリアを使った鞣し方です。
油を使い、これを皮の繊維に染み込ませて揉みほぐすことで柔らかくしつつ、より中に油を浸透させる目的がありました。

そう考えると、Dr.STONEの鞣し方は姫路白鞣しに近いような魚油を使ってもみほぐした鞣し方かな、と思います。

ですので、上記の擬音「ベロン」「べろろん」というのは皮を手で揉みほぐしている光景かな、と推測します。アイヌの「筋子塗りつけてから陰干しして木槌で叩く」というのと考え方的には似ています。

DR.STONEでは作られた革はこの後どうしたか?

出来た革は縫い付けて帆を作ります。
糸は魚の背中の繊維構造などを使います。針は魚の骨から作ります。また、魚の皮を噛むことで膠=接着剤も採取出来ます。

また樺太のトンコリという五弦琴の糸は、サケの筋(どこの筋かよくわからないが、それ
を叩いて緇くしたもの) とイラクサの繊維を混ぜて縒り合わせた糸を使ったというし、生
皮を噛んでいるとヌソペという膠になり、これを山狩りに使う半弓にサクラの皮を巻きつけて貼りつけるのに使った。

コタン生物記Ⅱ 449pより

帆ができると風の力を使って船を操船できるようになり、、、ということで話は最後に向かっていきます。落ちまで見たい方はぜひジャンプ買ってみてください。>週刊少年ジャンプ 2022年31号 | ジャンプBOOKストア!|無料マンガ多数!集英社公式電子書店
この話は多分8月発売予定の下記ファンブックに収録じゃないかな。
(追記 ファンブック買ったのですがこの外伝は載っていなかったですわ。ってことは今後もちょくちょく外伝話を数年単位で描くつもりなんだろうなぁ。。それか続編か。きれいに終わった漫画なので続編はないとは思うので外伝定期的発表かな。)

この手の話が好きな人におすすめは

興味ある方、、、以前も書きましたが、冒険ダン吉や冒険野郎マクガイバー、さいとうたかをのサバイバルなどが好きな方にはおすすめの漫画です。まさか26巻で終わるとはなぁ。。。てっきり30巻いくと思ったのになぁ

今(2022/07/15)なら下記サイトなりで5巻分無料です。

[第1話]Dr.STONE – 稲垣理一郎/Boichi | 少年ジャンプ+

 

Amazon.co.jp: 人類滅亡 Life After Peopleを観る | Prime Video…人類が滅んだ後世界がどうなるか、というヒストリーチャンネル。プライム会員なら無料。

この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた (河出文庫)…タイトルのまんま。Dr.STONEの元ネタとも言えるもの。でも革の記述少ないんだよね。機織りの前にまず革だろうが、とツッコミ入れて読みました。

ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)…タイトルのまんま。トースターを買えば2000円程度だけど、ゼロから作ってみよう!灯油からプラスチックを作ろう!ニクロム線を作るために石を採掘しよう!という学生の奮闘記。「自分がほしいものは自分で作りたい」という人にはオススメ。革は関係なし

現代知識チートマニュアル (モーニングスターブックス) …Dr.STONEなりを読んで「じゃぁ実際に石鹸作りたいならどうすればいい?」「磁石はどう作って何に使えるのか」などが項目ごとに解説されている本。無人島に何を持っていく、という質問の回答のひとつは「この本」
鞣し方なども解説されています。

軍事強国チートマニュアル (モーニングスターブックス)…上記の本の続刊。「じゃぁ生活は安定して社会が出来た」となった際に必須となる本。他国との戦争や内政などをどうするか、というのを項目ごとに解説。上記本が面白い、と思った人は読んだら楽しめるかと。

大聖堂・製鉄・水車―中世ヨーロッパのテクノロジー (講談社学術文庫)…中世ヨーロッパの技術話。技術はそれ単体で発生したのではなく、社会の需要に応じて発生する、というのがよく分かる。端的にいえば「必要は発明の母」という話。学術文庫なのに「皮革」の表現間違いがあるのがなんだかなぁ、と。

中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク…中世ヨーロッパ(範囲も時代もめちゃくちゃ広いよね、中世ヨーロッパって、、、)に興味あればこちらもオススメ。イラスト多様で読みやすい。値段高いけど、値段以上の本。多分このblogでも紹介します。

鮭皮の有効利用 : HUSCAP …北大の研究発表PDF。歴史的な作り方ではなく近代の鞣し方。

 

 

 

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