2020.10/31、革日和in熊本が無事に終了しました。
終了して2週間以上が経過し、コロナ感染者出なかったかな、と胸をなでおろしています。
今回革日和として初めて入場料を取りました。その際に「お土産品くらいないと悪いな」と思い配ったのが革のマグネットとクリアファイル。どちらも現在は非売品です。
で、このクリアファイルでは革偏の漢字を解説しています。
今回はこの中で書かれている「鞴」=ふいご、という漢字から、もののけ姫の製鉄話、大阪の鞴神社、フイゴという工具と革の利用。そして、なぜ今もののけ姫の画像が使えるようになったのか。ジブリは何を考えて、写真の使用をokにしたか、などを何回かにわけて解説してみましょう。
目次
鞴と書いてフイゴ、と読む。これなに?
鞴(ふいご)は気密な空間の体積を変化させることによって空気の流れを生み出す器具。
金属の加工、精錬などで高温が必要となる場合に、燃焼を促進する目的で使われる道具を指す。街の鍛冶屋で使われるような小型のものもあれば、たたら製鉄などで使われる足踏み式の蹈鞴(たたら)もある。
日本やアジアの場合は竹がありましたので火をつける際に空気を送り込んでいました。かなり便利な素材である竹ですが、燃やしているだけではせいぜい600度から700度くらいまでしかあがりません。鉄を作る製鉄の場合は1500度。そのために必要なのは燃料と酸素です。
燃料としては木炭なり石炭。そして酸素を送り込むために考え出されたのがこの鞴というわけです。
ちなみに「たたらを踏む」という言葉の「たたら」というのはこの「踏む形式のフイゴ」のことです。
【たたらを踏むの語源・由来】 たたら(踏鞴)は、金属の精錬・加工に必要な空気を送り込む大型の送風器「ふいご(鞴)」のことで、
もののけ姫で鞴が使われていたシーンはここ。
もののけ姫のストーリーは「もうみんな見ているでしょ?」と割り切っておきます。
このシーンはエボシ御前の作った「たたら製鉄所」で出てきます。この踏む形式のフイゴ=蹈鞴(たたら)こそがたたら製鉄の語源となっています。
「たたら」の発祥と発展 – 「たたら」とは – 鉄の道文化圏
このシーンで使われているのは「踏鞴」(ふみふいご)と呼ばれているものです。
今回使うテキストはこれ。「アニメで読む世界史2」
山川出版が出している本で世界名作劇場やジブリ、ディズニーなどを題材に解説が載っています。
該当するアニメを見たことがある人で歴史に興味ある人や背景を知りたい人にはうってつけの本となっていますわ。
第1章 ムーラン
敵側からみた歴史世界
第2章 アラジン
海のシルクロードとアラビアンナイト
第3章 もののけ姫
迫りくる「乱世」と
追いつめられた「もののけ」たち
第4章 ノートルダムの鐘
中世都市パリの光と影
第5章 ポカホンタス
2つの世界の架け橋
第6章 南の虹のルーシー
植民地開拓の物語
第7章 ジャングル・ブック
イギリスの支配とインドの対応
第8章 ターザン
文明化する幸せ,文明化しない幸せ
第9章 愛の若草物語
南北戦争と家族
第10章 紅の豚
「戦間期」の英雄
第11章 平成狸合戦ぽんぽこ
高度成長期のニュータウン開発
ちなみにアニメで読む世界史 | 山川出版社のラインナップは下記
第1章 レ・ミゼラブル 少女コゼット
つくりかえられた女性像
第2章 フランダースの犬
つくられた国家と少年の夢
第3章 家なき子レミ,ペリーヌ物語
近代フランスの子どもたち
第4章 アルプスの少女ハイジ
スイスのアイデンティティ
第5章 小公女セーラ
イギリス社会の階級意識と帝国
第6章 母をたずねて三千里
大西洋を渡る移民たち
第7章 家族ロビンソン漂流記 - ふしぎな島のフローネ
文明の移植と人種主義
第8章 トム・ソーヤの冒険
アメリカ的自由を求めて
第9章 トラップー家物語
多民族国家のパスポート
もののけ姫の時代背景
15世紀後半の室町時代後半と言われています。この頃は戦国時代の手前。
ここからは、この時代に生きた一般の人びとに焦点をあてることで 「もののけ姫」の世界に迫っていきたいと思います。 室町時代といえば、 一般に農業や商業が発展した時期とされますが、15世紀後半から16世紀 は、毎年、日本列島のどこかで災害や疫病,飢離が起こっていたと言うほど、過酷な時代でもありました。アニメの舞台も同様で, ジコ坊はアシタカに「タタリというならこの世はタタリそのもの」と語っています。 ただし、宮崎駿はさらに進んで、そのすべてをたんなる天災とはみなし ていないフシがあります。 ジコ坊が先の言葉を語ったのは廃壊となった 村でのことですが、 彼は村が壊滅した原因を洪水か, 地すべりに求めています。「もののけ」 たちを追い込んだのが森林伐採であるなら、それ による保水能力の低下が招いた人がこの村の壊滅であったとみること も可能というわけです。
アニメで読む世界史2 p60より
室町時代末期は政情不安な時代ということもありますが、世界的には「小氷期」と呼ばれる地球全体が寒冷な期間とも重なっています。結果的に日本に限らず飢饉などが発生しやすい時代でした。
日本では東日本を中心に飢饉による一揆が頻発。幕藩体制を揺らがしました。
セーフティネットとしての「むら」を作りたかったエボシ御前
それでは、このような時代を人びとはどのように生き抜いたのでしょ うか。まず取り上げたいのは, 自然災害や気候不順に対応するため、生産を効率化する努力がなされたことです。 例えば農業の面では、 水稲の品種改良やよりよい肥料の使用、 水車の導入による水利施設の改善など がはかられました。室町時代における農業や商業の発展には、 自然環境 の変化への適応という側面が多くあったわけです。
もうひとつ紹介しておきたいのは、危機に対応して人びとが集団への 帰属を強めたことです。人間は「無縁」ではなかなか生きられません。 過酷な時代であれば, なおさらです。最近では, 先進国全般の問題とし て「無縁社会」化が叫ばれ, 新たな「緑」のあり方が模索されています が、同じような試みは15世紀後半から16世紀にも、 さまざまな形がなされました。
(中略)
一方で,各種の集団がセーフティネットとしての役割を強めたことは、 そこに含まれなかった人びとの苦難とも表裏一体でした。家の内部では、 底子や未婚の女子の立場が弱まり、 村の人びとのよそ者や選歴民へのま なざしも厳しくなりました。 食い扶持を得るため家業を捨てて、 安価な 労働力を必要としていた都市へと向かった人びと(その多くは次男坊や三 男坊だったと考えられます)も多くいましたが、 そのなかには村に再び戻 ることができず、都市に留まらざるをえなかった人びとも多かったはずです。
彼らとは別にあらゆる集団から排除され、都市において「非人」と して深刻な差別を受けていたのが,「らい者」 (ハンセン病患者)でした。 「もののけ姫」では, 「業病」 者として登場する人びとです。 自らを 「呪 われた身」と信じる彼らにとって, エボシは自分たちを「人として扱っ てくださったたった一人の人」 だったのです。
アニメで読む世界史2 p60より
もののけ姫の裏主人公とも言えるエボシ御前が作りたかったのはこの時代の弱者である女性や業病(≒ハンセン病)にかかった病状者が暮らせる「むら」作りでした。そのためには侍を蹴散らすほどの軍事力とお金が必要となり、金を稼ぐ行為としてたたら製鉄による良質な鉄生産を主軸としていました。
アニメでよむ世界史2ではこの後「エボシのむらはなぜ子供がいないか」「ジコ坊と天子とエボシとの関わり」「侍に対抗するための鉄砲」「火薬」「エボシに宿る夜叉が滅ぼしたもの」というように解説がつながっていきます。流通や軍事、社会などが理解出来、もののけ姫をもう一度見たくなること請け合いです。
ここらを細かく話し出すと私が楽しくなってきますが、革からはどんどん離れていくのでひとまず離れます。
製鉄。これががもののけ姫の重要な大道具となっていることだけを覚えておいてください。
鉄穴流しによる製鉄
エボシ御前が行っていた鉄穴流し(かんなながし)は江戸時代に行われていた製鉄の砂鉄採集方法です。室町時代後期であるもののけ姫の舞台としては不釣り合いに未来的な技術なわけです。
宮崎駿はもののけ姫において、この未来技術を導入することで「エボシ御前がどれだけ先進的だったか」を表現しようとしたと思われます。
ただし、この鉄穴流しは大量の土砂が河川に流出します。これは山肌を削ることで山崩れなどが起こりやすくなり、この世界における神=もののけの怒りを買います。
同時に河川下流域における農業灌漑用水にも悪影響を及ぼし、たたら場の民と農民の間には不協和音が響いていたと思われます。エボシはそれでも製鉄を通じて金を手にし、鉄砲=軍事力を手にすることで侍に勝てる強い共同体を築きたかったわけです。
山砂鉄を効率よく採掘できる鉄穴流しですが、いくつかの欠点がありました。1つは回収した砂鉄の何十倍もの土砂を下流に流してしまうこと。流した土砂により沖積平野が拡大して耕作地は増加したものの、河川は埋没して川床が徐々に高くなり天井川になることにありました。
やりすぎやろ、鉄穴流し(;・∀・)
侍、農民、もののけから恨みを買ってでも自分の望んだ共同体を作り上げたかったエボシは最終的にはこの野望に取り憑かれ夜叉と化し、手痛い代償を払うことになるわけです。そのうえで彼女は最後に「良い村を作ろう」と言うわけです。
ちなみに、この「強大な力を持っているが、人間から追い出されていくもののけ」という構造を理解すると「となりのトトロ」や「平成狸合戦ぽんぽこ」などは更に面白く見ることが出来ます。
大阪に鞴神社、という神社がある
さて、大阪には「いくたまさん」の名前で呼ばれている神社生國魂神社(いくくにたまじんじゃ)があります。
生國魂神社|大阪|実は凄い神社だったんだね!日本国土の守護神を祀る古社は、癒しのパワースポットだ! | 「いにしえの都」日本の神社・パワースポット巡礼
ぱわーすぽっと、として有名なんですなぁ。鞴神社 にたまにお参りに行っていましたわ。
この神社は大阪城周辺にあった神社が1箇所に集約されています。
神社の脇道から下っていくと、、、
多数の神社が。
その中の一つが鞴神社です。
鞴神社は金物業界の守護神
祭神は、天目一箇神(あめのまひとつ)、石凝杼売命(いしごりどめ)、香具土神(かぐつち)。
・天目一箇神は、天の岩戸神話で、鉄鐸を造った神
・石凝杼売命は八咫鏡(銅鏡)を造った神
・香具土神は生まれる時に、母神である伊弉冉尊にヤケドを負わせた火の神生國魂神社|大阪|実は凄い神社だったんだね!日本国土の守護神を祀る古社は、癒しのパワースポットだ! | ページ 2 | 「いにしえの都」日本の神社・パワースポット巡礼 より
製鉄、製鋼、鋳金または機械工具などを商う金物業界の守護神となっています。
年に1回11月には刀鍛冶の奉納も行われます。
神社の名前に使われるくらいこの鞴という工具は由緒正しいわけです。
次回は鞴の考え方や作り方
を紹介していきます。その後に「なぜ今の時代にジブリは自社の著作物をネットで使っていいよ、と宣言し始めたのか」という著作権の話をする予定です。
過去の関連blog:
- エンタメで見る革の話:鞴(ふいご)の種類をDr.stoneを見ながら解説してみる
- エンタメの革の話をしよう!:Dr.STONEで見る魚の革の話。アイヌ民族の鮭皮衣や姫路白鞣しの話
- エンタメで見る革の話:刷ったもんだ!に見る皮と革の記述とレザックと江戸時代からあった革を模した紙の話
- エンタメで見る革の話:軍鶏の革の拘束具=革手錠に見られる「ねじる余地があると壊れる」「だから一切動かないように固定させる」という話
- エンタメで見る革の話:解体屋ゲンで学ぶ「~~屋」「~~師」と名前がつく仕事はそれだけで食べていける、はず、という話