【バックナンバーシリーズ】2013年07月30日 切れない糸ってあるの?からの、糸に関する話をダラダラと


毎週日曜日はブログ、バックナンバーシリーズの日です。

過去ブログに膨大にあるアーカイブの中から有益な情報を再掲して、日の目を当てよう!
そして最近レザークラフトに興味を持った方にも見てもらいやすいようにしよう!

とは言ったものの、、、今日はどっちかっていうとマニアックな話です。

「レザークラフトの糸って何を選べばいいんですか?」

との質問を受けることは日常茶飯事のPhoenixですが、これって明確な答えがないんんですよ。

今日のバックナンバー記事にもあるように、糸に何を欲するか、で回答が変わります。あと、切れない糸はそれはそれで問題があります。

その辺も含めて、この過去記事は学びが多いので改めて日の目に当てようと思います。

ただし、

古い記事ですので、新たに発売された糸もたくさんあります。(Phoenixでもビニモを取り扱うようになりましたし)

なので、全部が全部書いてあることを鵜呑みにせずに、「へぇー、そうなんだぁー」くらいの気持ちで読んでくださいませ。

それではご覧ください。

2013年07月30日の記事

切れない糸ってあるの?からの、糸に関する話をダラダラと

序文:バックナンバーシリーズとは?

 

Phoenixはここでブログを2014年から書いていますが、実はそのもっと前から他のサーバで書いていました。訳あって現在のサーバへお引越ししましたが、1400ほどあった旧サーバの記事はお引越しできず、そちらのサーバに置きっ放しとなっております。
(旧サーバのブログはこちら

現在でも古いブログはご覧頂けますが、別サーバの記事なのでブログ内検索などでは引っかかりません。

有益な情報がたくさんあって、とってももったいないなー、と日々思っていたので、これから少しずつ【バックナンバー】としてこのブログ用に再編して掲載していこうと思います。

古い記事の引用となりますので、表現が古かったり今ではもっと便利になっていたりしますが、これは当時のまま載せようと思います。

他にも価格が当時と異なっていたり、登場人物がすでにPhoenixを去った人だったりしますが、こちらは誤解を避けるためにも、ご本人への配慮もあり伏字や編集したものとさせていただきます。

予めご了承ください。

 

本文:糸に関する話をダラダラと。

レザークラフトを始めると糸に色々と凝りたくなります。

最近でしたらクラフト社が蓄光素材の糸を販売しましたな。(どういう対象を考えたんだ、クラフト社、、)※編集註)すでに廃盤商品です

また、大阪でしたら千里山に手染め糸専門のCIELOさんがあります。
こちらはむら染めの雰囲気ある麻糸や綿、ナイロン糸などを取り扱っています。

手染め糸(コットン・ヘンプ・ジュート・リネン・ファンシーヤーン)・カメラストラップ&アクセサリーのお店CIELO

 

さて。
最近うちの社長が東京イベント見物して革の出展者さんへ挨拶していたら「フェニックスさんのblog見ています!ものすごくマニアックな技術話が好きです」とか言われたそうなので「ジャァご要望にお応えして読む人置いてけぼりで糸の話を書いていこう」というのが今回のblogです。(/・ω・)/

切れない糸ってあるの?

炭素繊維の糸は存在しますがこれは切れない、との評判です。
また、ビニモの0番も頑丈で売れ行きもいい、とは協進エルさんの弁。
(うちで取り扱いないんですよねぇ、これ。。扱いたいが置く場所がなくて。。
競合店舗が取り扱っているからうちで扱わなくてもいいかな、という声もあって。)

じゃぁそれらを使えば切れない糸でいつまでも頑丈な財布やバッグが作れるの、という質問でしたら答えは「No」です。

切れない糸・頑丈な糸=頑丈な財布や鞄、というのは大間違いです。

切れない糸・頑丈な糸は与えられたダメージを革に与えてしまいます。
『糸は切れないけど革が切れてしまう』ということです。

特に最悪なのがコスレ・擦り切れ。

例えばジーンズポケットに入れている財布。
この財布を縫っている外側の糸は切れます。
毎日糸がジーンズの布地にコスレますのでブチブチと切れてきます。
特に太い糸を使えば使うほどコスレますので切れやすくなります。

どないせぇと?

いくつか方策はあるのですが、、、

●太い糸を使わない。ミシン糸などの30番や40番、麻糸の細手で手縫いする。細い糸を使えば使うほど表面積が減るので擦れに強くなります。=糸自体の強度はおちますがね

●シニューを使う。現状手縫いで使うならば強度・弾力性・持久力を考えるとシニューは非常に強い糸です。人工シニューは化学繊維の塊ですので非常に強力です。
ミシンには使えない糸ですな。
シニュー糸 – レザークラフトフェニックス
アメリカン カラーシニュー糸 – レザークラフトフェニックス
お試しカラーシニュー糸 – レザークラフトフェニックス

●革に溝を切る。溝切り、という道具があるので革の表面に溝を作り、この溝に糸がおさまるように縫っていく。この方法は最強です。そうそう糸は切れなくなります。
糸目が革に沈み込むのでコスレません。
ひゃっほ!これで問題なしじゃん!
ステッチンググルーバー – レザークラフトフェニックス

が。
革の吟面(表面0.3mmの頑丈な層)を削ってしまいますので革の強度がガクンと落ちます。
ミシン目、というだけあってそこからブチブチっと切れてきますね。

まぁ、糸が切れる、ってのは革を壊さないために自ら壊れてくれている、と考えるべきなんですが、そうもいかないでしょうから対策を幾つか。

対策その1 修理しやすく。

糸は、いつかは、切れます。
それだったら修理の体制や修理しやすい作りにしておく、というのも手です。
鞄の修理屋さんが嫌がる修理ってのはメーカーではなく、個人が趣味で作った鞄などの修理です。

なんでよ?

修理屋さん「個人さんの場合は効率を考えずに作っているやろ?だから強力な接着剤を使ったり、補強せないかんところに補強していなかったりするねん。だからバラバラにしにくい。革の場合はバラバラにする過程でブチッと切れたら大変やからねぇ」

なるほど。
修理しやすい構造にする、というのも手です。

対策その2 型紙の段階から。

サンプル師さんとの雑談。

Facebook:サンプル師が教えるバッグ型紙講座

あんな、サンプル師と普通の趣味なりの作り手の違いって補強や芯を考えているかどうか、かな?

サンプル師「甘いなε- (´ー`*)フッ
それは一因であって要因じゃないね。
ええか?サンプル師ってのは型紙作ったり実物サンプル作ってはい、終わり!じゃないねん。
熟練の職人じゃないと作れません!ってのはいかんねん。
『この押さえとこのミシン、この機械があればパートのおばちゃんでも作れます』という型紙が一番いい。

で、さらに構造によって壊れにくくしなければいけない。その過程の中で補強や芯の考え方がある。
どれだけ見栄えよかったり使い心地が良くても半年でどこかが切れたりしたらクレーム来るからな。
そういうクレームが来ないような型紙を作るのがいいサンプル師、ってことやで」

頑丈な糸は何か、と探すのではなく、構造の段階からそれを考えて型紙をきりましょう、という考え方ですな。

対策その3 革の段階から考えよう

先日鞄の職人さんと喋っていた時のこと。
「ムラキくん、バサラってあるやろ?」

《革》Phoenixオリジナルレザー 『バサラ』 ネット販売開始! : レザークラフト・フェニックス

うちの定番革ですね。
タンニン鞣しで手揉みによるシワ加工が特色の革ですわ。

「そうそう。
あれな、最初に触った時『大したことない革やなぁ』と思っていたんやけど、あれで縫ってみたらものすごく糸締まりが良かったんや!あれは良い革やねぇ!」

とべた褒め。
まぁ、DS135円・安定供給可能は伊達じゃないわ!

糸の締りがいい・悪い、は糸単体の問題ではなくて革の問題も関わってきますよ、ということですわ。
というか、良い・悪いの基準が糸締まりで左右される、ってのもすごいな、鞄職人。。

つまりは~
オールマイティーに”いい”糸なんてないよ、ということです。
糸はもう個人個人の好みですわ。

私個人で言うならば、、、
・手縫い…
エスコードラミー糸150m巻 – レザークラフトフェニックス (廃盤)
シニュー糸 – レザークラフトフェニックス

・ミシン糸
太目…アトラスV 5番,地球兎 0番(対応するミシンで使わないと確実にミシンさんの機嫌損ねます)
細め…ダイヤモンドフェザー テトロンミシン糸 20番 30番

さて、こっからは補足説明。

2本・平行線に縫ったら頑丈にならねぇ?

場所によります。
手縫いの菱目打ちやミシンのLR針、と呼ばれるものは菱目型の穴を開けます。
負荷をかけると裂けやすくなります。

「2箇所縫っているから頑丈♪」と思いますが、実際にはそれだけ菱目穴を開けてしまうのでコスレる場所や常時負荷がかかる場所などでは逆に裂けやすくなってしまいます。(多分、、、)

ミシンでしたら細い糸で2箇所縫いのほうが太い糸2箇所縫いよりも頑丈かと思います。
開ける穴は最小限の数で最小限の大きさで。

太い糸を使えば頑丈にならねぇ?

前述しているように擦れる場所で太い糸を使うと表面積が広くなるのでダメージを負いやすくなります。
また、太い糸を使うからにはそれに耐えうるだけの強い革を使わないと耐え切れません。
この場合の”強い”革、というのは定義が色々と難しいのですが、個人的には、、

・合成タンニン・タンニンなりの厚く腰のある革
・表面のハリがありすぎてもダメ、なさすぎてもダメ。適度にハリのある革。

これには太い糸でもokかと。
あとはコスレない場所に使おうね、と。

・コスれる場所ってどういうの?

ジーンズに出し入れするポケットや腰からぶら下げる道具袋などは毎日コスレます。
なにげに鞄の背中側部分、特にたすきがけするようなハンドバッグは毎日使っていると自分の体とバッグの背中がコスレますので切れやすいです。

・こういう知識や技術はどう身に付けるの?

糸はコスレたら切れる。
これを意識して市販品や電車の中で皆さんが使っている鞄やハンドバッグを観察していると徐々にわかってくるかと。
あとはたくさん作ってたくさん失敗したら自動的に学べます。

あまり学校や教室でこういう点まで教えている所は少ないように思えます。
実際に作って人に売るなりしてクレームを何度か受けたら真っ青になって意識出来るようになります。
(えぇ、そりゃもう夜枕に顔を押し付けてジタバタ暴れるほどさ!(T_T)

靴業界の人は靴の内側が肌に擦れるので糸に関して非常に気を使っていますな。
(「この部分の肌は弱いので糸が触れないように」「糸を無双縫いで表に出ないように気を使おう」etcetc)
お手持ちの靴をじっくりみるとヒントが隠れているかもしれません。

修理屋さんで働くとものすごい勢いでトラブル事例を学べるので腕はガンガンと上がりますよ( ´∀`)b!

文責:ムラキ

2013/08/08追記

これが履口部分に糸が出ないように考えて作られた無双仕上げのパンプスです。

過去の関連blog:


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